拡散思考

理系の東大生が文系っぽいことを考えてみました。小説、論説文、映画、囲碁が好きです。私の考えに対する皆さんの意見、批評、大歓迎です。

【漫画レビュー】『BLUE』 山元直樹

おすすめ度 ★★★★★

《概要》

 本書は、7つの短編から成る作品です。『BLUE』はその中の短編の一つ。

 ちなみに、この本は東京都によって不健全図書の指定を受けた、ある意味問題作です。ここでは、短編「BLUE」のみに焦点を当ててみたいと思います。短い作品なので、作品を最後まで紹介してしまいます。ネタバレ(といってもこの作品に大した落ちがあるわけではありませんが)を見たくない人は注意してください。

続きを読む

【映画レビュー】『王立宇宙軍 オネアミスの翼』

おすすめ度 ★★★★☆

《あらすじ》

 軍のはぐれもの部隊である王立宇宙軍。そこでは、人類初の有人宇宙飛行が計画されていた。ふらふらと享楽的に日々を過ごしていた王立宇宙軍の軍人、シロツグ・ラーダットは、布教活動を行う少女、リイクニとの出会いを通じて宇宙飛行士に志願する。宇宙飛行士として世間の注目を浴びる一方で、誰にも直接的な利益をもたらすことのない自分たちの計画に、シロツグは葛藤し、成長してゆく。

 

《評価》

 本作は、当時若手のアニメーターが結集して作製したアニメーション映画である。スタッフの平均年齢は24歳であったらしい。しかし、作品のすばらしさは一級品であると私は思う。

 まず、本作の1番の見どころの一つは映像の美しさである。映像という観点だけでいえば、ジブリの映画よりもはるかに素晴らしい。特にクライマックスシーンでの、戦闘、ロケット打ち上げには心打たれた。

 ストーリーに関しては、一部では酷評されているようである。wikipedia安彦良和氏の意見を引用してみよう。

全然素晴らしいとは思わない。何のメッセージもない。ただ映像は素晴らしい。誰がやったんだこんなとんでもない作画。そういうことをやって何を言いたいんだっつったら、地球は青かったって言うんですよ。それガガーリンだろ、50年代だろ、ふざけんな(笑) 青いの当たり前じゃない、みんな知ってんだよ。それが物凄い気持ち悪かったんですよね。こんなに無意味なもの、これだけのセンスと技術力を駆使して表現しちゃうこいつら何なの?って」と否定意見を述べている。

王立宇宙軍 オネアミスの翼 - Wikipedia

 

  私はこの意見には賛同しかねる。なぜなら、この作品の「無意味さ」そのものが、主人公シロツグのモラトリアム感を存分に醸し出しているからだ。この作品のテーマは、「ニヒリズム」なのかもしれない。はじめ、シロツグは無為に日々を過ごしていた。では、宇宙飛行士になると決意してから、その生活に変化はあったのか?答えはNOである。むしろ、人類が宇宙へ行くことに疑問を感じているような節さえある。そんなニヒリズム的日常を、信仰によって乗り越えていこうとする姿を描いたのがこの作品なのである。