拡散思考

理系の東大生が文系っぽいことを考えてみました。小説、論説文、映画、囲碁が好きです。私の考えに対する皆さんの意見、批評、大歓迎です。

【漫画レビュー】『BLUE』 山元直樹

おすすめ度 ★★★★★

《概要》

 本書は、7つの短編から成る作品です。『BLUE』はその中の短編の一つ。

 ちなみに、この本は東京都によって不健全図書の指定を受けた、ある意味問題作です。ここでは、短編「BLUE」のみに焦点を当ててみたいと思います。短い作品なので、作品を最後まで紹介してしまいます。ネタバレ(といってもこの作品に大した落ちがあるわけではありませんが)を見たくない人は注意してください。

 

 

《あらすじ》

 ふとしたきっかけで、主人公の高校生灰野は、クラスメートの少女、九谷と学校の屋上でセックスをするようになる。それは、ドラッグ「BLUE」を使用した刺激的なものだった。灰野は次第に九谷に思いを馳せるが、九谷は「BLUE」を提供してくれる大学生の男とも肉体関係を結ぶ。灰野と九谷の関係は肉体的なものだけであって、精神的なものではなかったのだ。

 灰野は九谷をドライブに誘い、自らの思いを告げる。しかし、九谷の返事は、「・・・・・・・冗談でしょ?」の一言だけだった。

 高校を卒業してから、二人は会うことがなくなった。灰野には自殺する自分の幻覚が見えるようになるという後遺症だけが残った。

 

《感想》

 先ほど書いたように、この作品は東京都に有害図書指定をされました。その理由はおそらくただ一つだけです。すなわち、この作品が「エロい」から。「エロい」と青少年に「有害だ」から。

 これほど短絡的な考えはないと思います。青少年の性を禁忌とする考えがおかしい。人間が生きてゆくうえで、男女の仲というものは必然的に存在するものです。初めてのセックスが成人する前に訪れることもあるでしょう。かくいう僕もそうでした。性をタブーとする見方はこういった現実を無視しています。

 しかし、この作品が単純なエロだけを目的にしたものだったのなら、有害図書指定を受けるのも納得できます。けれども、この作品はそういった、性欲解消的な意図だけで作られた作品とは僕は思えません。この作品には、肉体的にはつながっているにも関わらず、精神的にはつながることのできないパラドックスや切なさを描いた作品であるように思えます。この切なさが、僕には共感できるところがあるし、だからこそテーマがあると思えるのです。むやみやたらに現実や芸術を子供の目から隠すことは、むしろ「健全な育成」を妨げているのではないでしょうか。